就労指導がある方の起業法

就労指導の対象になっている場合、アルバイトをしながら少しずつ準備するのではなく、最初から「この事業で自立を目指す」と明言し、正式な起業計画として承認を求める「正面突破」が有効です。
このページでは、制度上許されている起業の可能性と、福祉事務所に納得してもらえる事業計画書の作成方法、承認されやすくなる条件について詳しく解説します。

はじめに ― なぜ“正面突破”なのか

就労指導の対象になっている場合、ほとんどのケースでは「まずはアルバイトを」と促されます。
しかし、生活保護制度の収入計算では、月15,000円を超えた分の9割が保護費から減額されるため、中途半端な収入では精神的にも経済的にも負担感ばかりが残ります。
そのため、体力や時間を消耗しながら副業を並行する方法は、現実的に長続きしないことが多いのです。

そこで一つの方法として考えられるのが、「事業計画書を作成し、福祉事務所に正式な起業計画として承認を求める」という“正面突破”です。
これは、アルバイトをしながら少しずつ準備するのではなく、最初から「この事業で自立を目指す」と明言し、そのための計画を提示するやり方です。

制度上、起業は許されている

生活保護法には「自営業を行ってはならない」といった規定はありません。
むしろ、自立に資する行為は支援の対象となる可能性があります。
資格取得や設備購入のための「生業扶助」もその一例です。
つまり、制度の枠内であれば、起業は合法かつ正当な選択肢なのです。

現場の温度差と認識不足

問題は、制度が許していても、現場のケースワーカーや福祉事務所職員の中には「起業」という選択肢に馴染みがない人が多いことです。
彼らの業務は「雇用されて働く」形を前提に組み立てられており、自営業やネットビジネスの事例は極めて少数。
中には「そんな方法があるとは思わなかった」という反応をするケースもあります。
そのため、制度的な可否以前に、「理解されていない」という壁を超える必要が出てきます。

スピードと精度の両立

正面突破プランでは、長い準備期間を確保することは難しく、スピード勝負になります。
同時に、その計画が「現実的で、安定した収益が見込める」ことを、短時間で納得してもらえる精度で提示する必要があります。
つまり、早く・正確に・分かりやすくが必須条件です。

事業計画書には、少なくとも以下の要素を盛り込みましょう。

  • 事業の内容(何を・誰に・どのように提供するのか)
  • 収益の見込みと根拠(数字・期間・成長の見通し)
  • 自立までの道筋(いつ・どの程度の収入を目指すのか)
  • 必要な準備や資源(スキル・設備・人脈など)
  • リスクとその対策(不安要素をどう潰すか)

ここで大切なのは、情熱や意欲だけで押し切らないことです。
福祉事務所が判断の基準にするのは「夢」ではなく、数字・根拠・現実性です。
“やりたいこと”ではなく、“できること”を、根拠とともに提示する
これが承認への第一歩となります。

仕組みと前提条件

この方法の最終判断を下すのは、担当ケースワーカー個人ではありません。
ケースワーカーはあくまで橋渡し役であり、最終的な可否は福祉事務所全体の判断によって決まります。
そのため、個人の理解度や経験だけで決まらない一方、複数の職員や上司の目に触れることを前提に、説得力のある資料と説明が求められます。

承認されやすくなる条件

次のような条件がそろっていると、計画が受け入れられる可能性は高まります。

  • 医師の診断書による就労制限 「一般就労は困難」「継続的な勤務は不可」などの文言が診断書に明記されていると、労働よりも事業活動の方が適していると判断されやすくなります。
  • 過去の実績がある 過去に同分野での収入や活動実績があれば、計画の現実性が増します。売上データや制作物など、形に残る証拠が有効です。
  • 収益の見込みを数字で示せる 「どのくらいの期間で」「どの程度の売上・利益を見込むのか」を具体的な数字で提示できることが重要です。

納得感を与える説明

事業内容の専門性や難易度が高い場合でも、必ずしも全員がその分野に詳しいわけではありません。
大切なのは、一貫した説明と自信ある受け答え、そして資料の分かりやすさです。
「この人は本気で準備している」と思わせることが、最初の壁を超えるカギになります。

制度上の正攻法

この方法は、制度の抜け道や裏技ではなく、生活保護法の申請主義に基づいた正攻法です。
「起業はしてはいけない」という規定は存在せず、むしろ自立に資する取り組みは制度の目的に沿っています。
重要なのは、その計画が本当に自立につながると福祉事務所に納得してもらえるかどうかです。

プレゼン準備 ― 資料作成のポイント

「正面突破」で最も重要なのは、短時間で“現実性”と“自立可能性”を伝える資料を整えることです。
そのためには、情熱やアイデアの斬新さよりも、数字・根拠・計画性を明確に示すことが求められます。

必須要素

最低限、次の項目は盛り込みましょう。

  • 数字:売上予測、経費、利益見込みなどの具体的数値
  • グラフ:売上・利益の推移や市場規模の変化を視覚化
  • 成長予測:半年後、1年後、2年後などの収益見通し
  • マイルストーン:各時期に達成する目標や成果物(例:○月までに商品完成、○月に販売開始)

これらを盛り込むことで、「夢」ではなく「計画」であることを相手に印象づけられます。

分かりやすさ重視

資料は、その分野を知らない人が見ても理解できる構成にします。
専門用語は避け、どうしても必要な場合は必ず注釈を入れましょう。
説明は「結論 → 根拠 → 補足」という順序を守ると、短時間でも理解されやすくなります。

想定問答

面談では、事業内容や収益性について必ず質問されます。 想定される質問例と、それに対する答えを事前に用意しておきましょう。

  • 「なぜこの事業を選んだのか?」
  • 「いつ頃から収益が出始めるのか?」
  • 「体調面の不安はどう対処するのか?」

あらかじめ答えを準備しておけば、受け答えに一貫性が生まれ、信頼感につながります。

誠実さ

症状や状況を偽ることは絶対に避けましょう。 医師の診断は正確に反映し、無理のない範囲での事業計画にすることが重要です。
「できないことはできない」と明確にし、その上で「できること」に集中する姿勢が、現実性を裏付けます。

面談・承認のプロセス

事業計画書が整ったら、次はいよいよケースワーカーとの面談です。
ここは単なる「説明」ではなく、自分の計画を制度の中で実現可能な選択肢として認めてもらうためのプレゼンと捉えてください。

事前に時間を確保する

日常の相談のついでに説明するのではなく、まとまった時間(目安:2時間)を確保してもらいましょう。計画の全体像、収益見込み、自立までの道筋を一気に伝えるためです。
その際、事前に「今回は起業計画の説明に専念したい」と目的を明確にしておくと、腰を据えて聞いてもらいやすくなります。

面談で必ず答えるべき3つの質問

  1. なぜこの事業なのか
    過去の経験やスキルとのつながり、市場ニーズ、競合との差別化など、選んだ理由を説明します。
  2. どうやって収益化するのか
    販売方法、価格設定、顧客層、販路、マーケティング手段など、具体的な流れを示します。
  3. いつ頃、自立できそうか
    「〇ヶ月後に○万円」など、時期と金額を明示し、根拠となる試算を添えます。

承認後の扱い

福祉事務所から承認されると、就労指導は停止または大幅に緩和され、自営活動を正式に行える状態になります。
ただし、これは永続的な免除ではなく、結果が出なければ再び就労指導の対象になる可能性があります。

説明の姿勢

内容の専門性よりも、「計画の一貫性」「受け答えの確かさ」「自信のある話し方」が、相手の信頼感を左右します。
制度上、起業は合法ですが、事例が少ないため担当者の不安を拭うのは容易ではありません。誠実かつ明快なプレゼンで「この人の計画なら現実的に進められそうだ」と思わせることが重要です。

リスクと代替プラン

正面突破型の起業計画は、承認されれば大きな自由度を得られる反面、通らなかった場合や計画が想定通り進まなかった場合のリスクもあります。
事前に想定し、次の一手まで準備しておくことが重要です。

承認されなかった場合

計画が受理されなければ、基本的には通常の「就労指導」に沿って動く必要があります。
その場合は、アルバイトや短時間就労と副業を組み合わせながら、再チャレンジのタイミングを見極めます。
再挑戦時には、初回よりも実績や数字を添えて、説得力を強化しましょう。

承認後の注意点

承認はゴールではなくスタートです。
結果が出なければ、再び就労指導の対象になる可能性があります。
特に、中途半端な収入を得てしまった場合は、その分が保護費から控除されるため、手取りが大幅に減ることもあります。
この点は「返還リスク」というよりも、“収入に応じて減額される制度”の仕組みと理解しておくことが大切です。

自治体による計算方式の違い

収入の集計方法は自治体によって異なります。
月単位で計算されるところもあれば、数か月単位で平均化してくれるところもあります。
この違いによって、同じ収入でも手元に残る金額が大きく変わるため、事前に詳細を確認しておきましょう。

「スピード勝負だが精度命」

正面突破型は、限られた時間で承認を取り付ける必要があるためスピードが求められますが、拙速は禁物です。
数字や根拠が甘い計画では、承認を得られても長続きしません。
短期間であっても、数字・根拠・説明の精度を極限まで高めてから挑みましょう。