制度の前提と認識の違い
生活保護制度は「最低限度の生活を保障する」ことを目的としていますが、起業という選択肢との間には認識のギャップが存在します。
このページでは、その違いを明らかにし、制度内での起業の可能性について考えていきます。

音声で聞く(4分18秒)
制度の建前と現実のズレ
生活保護制度は、「最低限度の生活を保障すること」を目的とした制度です。
いわば「命の保証」を担うものであり、資産形成や自己実現といった目的とは本質的に切り離されています。
この前提は、就職を通じて安定収入を得るという“定型的な自立ルート”においては一定の合理性がありますが、こと起業となると話は変わってきます。
本来、起業は自己責任と自由意思に基づく選択肢ですが、制度の論理の中では「不確実で、無謀にも映りかねない行動」と見なされがちです。
こうした前提の違いが、制度側と受給者側の間にすれ違いを生むことが少なくありません。
ケースワーカーの認識の限界
生活保護の相談・管理を担うケースワーカーは、多くが公務員や委託職員であり、基本的には「雇用される働き方」を前提に業務を行っています。
そのため、「会社に雇われて働く」という発想から外れる“起業”や“自営”に対して、制度上の可否以前に、認識自体が乏しいケースも珍しくありません。
たとえ制度的には起業が不可能ではなくても、現場レベルで「聞いたことがない」「事例がない」というだけで、慎重・消極的な対応をされることがあります。
実際、私が起業の相談を持ちかけた際も、「同じ圏域(※市町村など管轄単位)で過去に前例が1件しかなく、確認のために時間がほしい」と言われたことがありました。
制度に明記されていない“不文律”のようなものが、現場の判断を左右してしまうこともあるのです。
制度の中でも起業は可能
「生活保護を受けている間は、起業なんてできない」――そんな声を耳にすることもありますが、実際にはそうとは限りません。
日本国憲法には「職業選択の自由」が明記されており、生活保護を受けていても、事業を選ぶ権利が奪われているわけではありません。
もちろん、制度にはルールがあります。
たとえば、健康上の理由などで就労が困難とされている場合、起業という在宅や自己裁量でできる働き方が現実的な選択肢になりえますし、就職活動を並行しながら起業準備を進めるという形でも問題はありません。
重要なのは、「何もせずに起業だけを理由に動かない」ような場合に、就労指導の対象となるという点です。
制度に反しているのではなく、“制度の目的に照らして合理性があるか”が問われるのです。
納得と信頼のための説明責任
生活保護制度の中で起業を行う場合、何よりも大切なのは「きちんと説明すること」です。
どんな事業を、どのように進めていくのか。
その事業に収益の見込みがあるのか。
そして、それが自立への道筋になりうるのか。
こうした点について、ケースワーカーや福祉事務所に対して丁寧に伝える姿勢が求められます。
起業そのものが否定されるわけではありませんが、説明や根拠が曖昧なままでは「現実性がない」と判断されてしまう可能性があります。
信頼関係が築けていれば、たとえ制度に例外的な運用が必要な場面でも、前向きに検討してもらえる余地が生まれます。
「できるかどうか」ではなく、「どう伝えるか」「どう納得してもらうか」が、制度の内側で起業する際の大きなカギになります。